【書評】リディアードのランニング・トレーニング(橋爪伸也、ベースボール・マガジン社)

 

陸上競技中距離・長距離の練習法

 

リディアードのランニング・トレーニング(橋爪伸也、ベースボール・マガジン社)

 

著者の橋爪伸也さんは、
1980年頃からの
リディアードの弟子で、
日立陸上部の初代コーチも
務められたそうです。

 

リディアードって古いの?

橋爪伸也さんは、本書ではありませんが、
『リディアードのランニングバイブル』
(大修館書店)の訳者(小松美冬さん)
まえがきにも登場します。
「アーサー(リディアード)の
 トレーニング論が古い
 なんていっているの、
 日本だけじゃない?」
というFAXの内容が紹介されています。

一時期話題になった
ナイキ・オレゴン・プロジェクトの
元コーチ、スティーブ・マグネス氏の
サイトでも、
リディアードの名前は何回も登場します。
最先端のトレーニングと言われた
ナイキ・オレゴン・プロジェクトの
関係者が何度も言及するような人が、
古くさい人でしょうか?

リディアードが古いかどうかを
判断する資格があるのは、
有酸素ランニングを90分しても
それほど疲労を残さない体力をつけ
ヒルトレーニングを実行して
スプリントとスピード持久力を養成し
無酸素トレーニングをして、
有酸素能力、スプリント、
無酸素能力を協調させたことがある
人だけです。

 

ケニア人はなぜ速いか?

本家
『リディアードのランニングバイブル』
でも、ケニア人の強さの理由は、
学校まで走って行くことにより、
有酸素能力が開発されているから、
とされています。

たとえば、
陸上競技の月刊誌やネット記事に、
トップレベルの選手の練習メニューが
載ったとしましょう。
トラックをビュンビュン走っています。
そのようなメニューを、
たとえば、800mを2’00″、
1500mを4’10″程度の大学生が
マネをして、記録は順調に
伸びるでしょうか?
おそらく、
それほど記録が伸びないだけなら
まだマシなほうで、
再起不能レベルの故障をする
可能性も高いと思います。
大学の中距離パートというのは、
そのような場所になりがちである
気がします。

マネをするのであれば、
「学校に走って通う」
に相当するトレーニングから、
マネをしなければなりません。
つまり、リディアードの言う
「有酸素ランニング」です。
何年か前、高橋尚子さんが、
日本女子マラソンの状況について
「もっと泥臭い練習をしたほうが
 いいのではないか」
と言ったことがあります。
おそらく、現在の日本女子マラソンも、
世界トップ選手の
「現在の」練習を表面的にマネをして、「
学校に走って通う」
部分を見落としている
傾向があるのではないでしょうか。

 

誰でも走れるようになる

リディアード式で、
20人の中年の心臓病患者が
8ヶ月で全員が32kmを走った、
という話が載っています。
ただし、このあたりの
全くの初心者がフルマラソンを
完走するようなノウハウは、

今や、マラソンの本、記事や、
『ダニエルズのランニングフォーミュラ』
などにも載っており、
特に目新しくはないでしょう。

 

乳酸

乳酸性閾値、LTを超えると
急に乳酸が増える話が出てきます。
最近の本にふさわしく、
乳酸は疲労物質ではなく、
解糖に伴う水素イオンによる
pHの低下が筋収縮を困難にする、
と説明されています。

 

タバタ式トレーニングへの懐疑

タバタ式トレーニングにも
メリットはあると思います。
高強度の運動を20秒、

10秒のリカバリー、
それを8セットで4分間。
それで最大酸素摂取量が向上する。
しかし、本書にもあるように
特に長距離走においては、
最大酸素摂取量が向上したところで、
筋持久力をはじめ、
長時間の有酸素ランニングにより
得られるものが得られないので、
ちゃんと長時間の有酸素ランニングを
こなすべきでしょう。

 

ミトコンドリアと「シャープナー」

『リディアードのランニングバイブル』
謎の1つは、
シャープナーという練習でした。

50mダッシュと50m流しをくり返す。
そんなことできるかと(笑)。
本書では、シャープナーのやりかたが
解説されます。

また、有酸素エネルギーは
細胞内のミトコンドリアで
生成されます。
有酸素ランニングを行う意義の1つは
ミトコンドリアの数と大きさを
向上させることです。
最近の研究によると
ミトコンドリアの
「機能」を向上させるには、

150~200%LT、つまり、
シャープナー程度の走スピードが
ちょうど良いとのことです。
有酸素ランニングの後のシャープナー。
リディアード式と運動生理学が
また結びつきました。

心拍数を基準にする?

『ダニエルズのランニングフォーミュラ』
でも、心拍数で、機械的に
220 ー(年齢)
の公式を使うのは適切ではなく、
自分の正確な最大心拍数を
知る必要がある、とされます。
本書でも、もう少し複雑な
公式が紹介されています。

 

セバスチャン・コーの話

2021年現在でも
セバスチャン・コーの800mの
1’41″73(1981年)は
世界歴代3位です。
本書によると、
セバスチャン・コーの父親であり
コーチであるピーター・コーが
「スピード持久力」という
トレーニングを編み出したそうです。
たしかに、この記事を書いている私も、
セバスチャン・コーといえば、
トラックをビュンビュン走っている
イメージです。
しかし、本書によると、
ピーター・コーとの共著もある
(『中距離ランナーの科学的トレーニング』
 (大修館書店))
マーティン博士は
「セバスチャン・コー
 のトレーニングほど
 リディアードの影響を受けている
 トレーニングはない!」
と言っているそうです。
また、ピーター・コーが
セバスチャン・コーが不調の時、

リディアードと連絡を取ったという
エピソードも語られます。

 

ヒル(坂)トレーニング

『リディアードのランニングバイブル』
では、連続写真と文章での説明に
とどまりましたが、
本書では、動画を見ることができます。
Webサイト
「The science of running」
のスティーブ・マグネス氏は
このページ
「リディアードの弟子が
 ラストスパートに強かったのは、
 有酸素ランニングのおかげではなく、
 ヒルトレーニングのおかげ」
と述べています。
この記事を書いている私は、
高い有酸素能力で脚を残し、
かつ、ヒルトレーニングで
スピード、スピード持久力を
養成したから、だと思っています。

 

まとめ

『リディアードのランニングバイブル』
を買わずに、本書だけを買うのは
オススメできません。
1冊目は『ランニングバイブル』です。
あくまでも、
『ランニングバイブル』の
解説書、
裏話、的な本です。
具体的な練習方法などは

もうひとつわかりにくいです。

ただし、リディアードのファンであれば
必読でしょう。
たとえば、上記のように、

『ランニングバイブル』では
シャープナーのやり方が
わかりにくいですし、

本書では、ヒルトレーニングの動画を
見ることができます。
リディアード式と最新の運動生理学を
結びつけるような話も、
所々に出てきます。
より、リディアード式のトレーニングを
する意欲が湧いてくると思います。

 

陸上競技中距離・長距離の練習法

Twitter