中長距離走で記録を伸ばすヒント集:為末大さんのYouTubeから考える
競技のやめ時 ー よりも深い話
日本のスポーツの特徴に「本気でやるか」「やらないか」の二択、というものがある。オランダでは、8~9割は、何かになろうともしてないし、上手くなろうとも思っていない。
なぜトレーニングをしなくてはならないのか?いきなり試合に出ればいいではないか。
トレーニングが必要なのは、上手くなりたいから。映画を見る時は、「映画を見るのを上手くなろう」とは思っていない。
日本的な二択ではなく、グラデーションの部分があれば、「引退」「競技をやめる」というのは不思議な感覚。トレーニング強度を低くして、ちょっとやればいいじゃない、と。
やめ時は、自分が納得した時。
一方で、選手は、辞めるか辞めないかを考えている時の知識の量が非常に少ない。世界は広い。いろんな人生、いろんな生き方がある。日本以外にも国がある。
次の夢ができるかどうか。
筆者の意見
日本でも、たいしたことない大学の陸上部あたりの中長距離ランナーだと、大学時代に匹敵するパフォーマンスは出なくてもいいので、気軽にマラソンに出る、といった人は、それなりにいるように思います。
一方で、筆者は、それなりのパフォーマンスが出ないと、つまらないなあ、と思ってしまうタイプです。この件については、筆者は、自分を肯定するつもりは全くなく、逆に、純粋に走ることを楽しめないのかなあ、と自省します。
「次の夢ができるかどうか。」という話は、走ることを離れて、転職などにも通じてきそうな話ですね。
中長距離走で練習メニューより大切なこと?
最も大切なのは、適切な位置に自分を収めること。これがタイムの限界を決める。遅い選手は、位置を修正しなくてはならない。為末さんが指導者だったら、400mハードルで49秒(台?日本選手権に出られますね)に入るまでは、位置探しだけやる。
生理学は枝葉。位置が根元。
位置を支えるのが体幹。
筆者の意見
為末さんは、短距離の人で、しかも思想が、生理学よりもかなり動き(バイオメカニクス)に偏っています。それでも、ほぼコーチをつけずに自分で試行錯誤して、世界陸上で銅メダルを2回獲った人なので、傾聴に値する見解でしょう。
中長距離走の場合、まず、何メートルをどのくらいのタイムで何本走るか、といった練習メニューが最優先事項のように思います。
一方で、強豪校やそうでない学校でも「動きづくり」に時間をかけている様子も見られます。ただ、この実際には走っているわけではない「動きづくり」で為末さんの言う「自分の位置」を探すことができるのでしょうか?実際に走りながら、ということになるのではないでしょうか。したがって、中長距離ランナーの場合、特にレースペースあたりの練習のときに、生理学的な効果を狙うとともに「位置探し」も行うことが望ましい、ということになりそうです。
逆に、中長距離ランナーが、為末さんが言うように、位置探しばかりしたとしましょう。また、位置を支えるのが体幹なので、ウエイトトレーニングを頑張ったとしましょう。それで、800m以上の中長距離を持ちこたえることができるのでしょうか?おそらく無理でしょう。やはり、中長距離ランナーは、使う筋肉の有酸素能力、スピード持久力などを生理学的に鍛えなくてはならないように思います。
結局は、何事もバランスなのだと思います。ただ「位置探し」という観点は中長距離ランナーには欠けがちかと思うので、留意すべきかと思います。
中長距離走トレーニングと「オールアウト」
トレーニングにおいて「オールアウト」とは限界まで追い込むこと。
為末さんは、オールアウトが競技力向上につながるのか、疑問に思っていた。
練習の後半、苦しくなると、動きが崩れてくる。理想の動きと違う筋肉を使うようになる。そのように筋肉に刺激が入ることが良いことなのだろうか?
28歳頃、冬にオールアウトしないシーズンを作ってみた。全部95%くらい。動きが乱れてきたと思うと、スーッと抜いて、リラックスした自然な動きを求める。
すると、夏の間にも体がフレッシュに保たれている感じがあった。
若いときには、オールアウトして、調子の極小値を作り、そこから超回復を狙うことが有効かもしれないが、ある年齢に行くと、深く落ち込みすぎて、回復しきれないのではないか。
筆者の意見
オールアウトしないメリットの為末さんの見解は2点に分けられるでしょう。
・理想の動きで使う筋肉を最後まで適切に使い続けることができる。
・ある年齢になると、そのくらいのほうが回復できて合理的
前者について。特に中距離練習では、レペで全力で競い合って、最後はもがいてでもチームメイトに勝ちに行く傾向があるように思います。一方で、最後のもがいた動きは、あまり理想の動きを強化するトレーニングにはなっていないようにも思います。長距離練習でも、5000mのレースペースあたりのインターバルで、最初に速く入りすぎてしまうと、後半、動きも乱れるでしょうし、ペースダウンしていますから、生理学的にも、その練習の目的だった刺激を得られないのではないかと思います。
特に、中距離チームの場合、レペで全力で競い合うほうが高揚感があるでしょうし、合理性を超えたところから、なにか得られるものもあるでしょうから、「オールアウトしない練習」をチームとして行うのは、現実的には難しいのかもしれません。
後者について。ある年齢までアスリートでいる人は少ないでしょう。一方、若者の場合、重要なレースのある程度の期間の前に、合宿などで、オールアウトを含む無茶めの練習をすることによって、重要なレースに大きなピークを持ってくることができる、というのはあると思います。特に中距離走の秋シーズンなどは、このような練習計画が有効のような気がします。
一方で、中距離走も春シーズン。長距離走は年間を通じて(夏合宿は涼しいところでそれなりの期間行う前提)、「きつくない有酸素ランニングでいいので、走行距離を増やす」ことにより、重要なレースに大きなピークを持ってくることができるような気もします。
中長距離ランナーは筋肉をつけていいの?
たしかに、筋肉量とスピードの適切なバランスはあるだろう。それを超えた筋肉量はスピードを落とすだろう。
しかし、一般的には、筋肉をつけることは、スピード低下にはつながらないだろう。よほど専門的、ボディービル的にやらない限り、そこまで大きくできない。
したがって、普通に筋力トレーニングをしてつく筋肉については、気にしなくていいのではないか。
短距離の歴史は巨大化。背が高くなり、体が大きくなり、体重が重くなっている。上半身が大きくなっている。地面に対して圧を加えるので、体が大きいほうが強い圧が加えられて、返ってくる反発も強い。(その分、重たいものを運ぶことになるのだが。)
脚が大きくなると、振り回さなければいけないので大変。お尻はいい。自分の中心に近いものは大きくてよく、末端になるほど細いほうがコントロールしやすい。
アジア人の上半身は細いので、いくらでも大きくしたら?
筆者の意見
近年の走理論は、地面からもらった反発を、お尻、股関節あたりで受ける、というものです。そして、お尻、股関節周りの筋肉は、上記の「自分の中心に近い」に当たるので、中長距離ランナーも積極的に鍛えていいのではないかと思います。
また、ウエイトトレーニングのような負荷の強い筋トレは、筋力をつけるだけでなく、筋繊維の動員(リクルート)を増やす効果があると言われます。人間の筋繊維は100%働いているわけではありません。働く筋繊維の割合が増えれば、1本1本の負担が減るので、スピード持久力が増す、ということのようです。ケニアあたりのエリートマラソンランナーが、マラソンとは直接が関係が遠そうな坂ダッシュを行うのは、このような効果を狙っているようです。
まさに自分の中心と言える「体幹」については、為末さんは別の動画で語っています。バーベルのプレート(筆者はダンベル)をブンブン振り回すのが実戦的だと言っています。為末さんは、生理学より「動き」(バイオメカニクス)で語る人なので、「後半ペースが落ちる」のは「体幹が弱いから、正しい動きができなくなるから」と言っています。中長距離ランナーも積極的に鍛えていいのではないかと思います。
背筋も自分の中心と言えるので、中長距離ランナーも積極的に鍛えていいのではないかと思います。
近年「腹圧」ということが言われます。為末さんの別の動画で語られています。1つには腹筋の下の方を鍛えると良いと語っています。これも自分の中心と言え、中長距離ランナーも積極的に鍛えていいのではないかと思います。
そもそも、中長距離ランナーは、デメリットになるほど筋肉をつけるのは大変のような気がします。
高校生の冬期練習
陸上競技は冬で決まると言っても過言ではない。
高校生は大人になりかけの時期。ある程度の体力はあるが、技術が未熟。高校生が強度が強いはずの練習を量もこなせるのは、体力があるというよりは、技術が未熟で出しきれないから。
ざっくり以下の3分類。
・走る
半分くらいでいいと思う。
・技術
ドリル、動きづくり。1歩1歩の効率を高める。
・体力をつける
筋力と持久力。将来を考えないんだったら、走り込んでウエイトをやれば伸びる。その後の未来はあまりなくなるけど(?、後述)。
サーキットトレーニングがオススメ。
筆者の意見
為末さんは短距離を念頭に置いて上記の話をしているのかもしれません。ただ、世間では、短距離でも、もっと走る比率が高いのではないかと思います。
中長距離の高校生の場合、さらに、長い距離を走るほうに偏っているでしょう。
為末さんの話の1つのテーマに「早すぎる最適化」というものがあります。
ピークを若い年齢に持ってきすぎなのではないか、と。上記の「その後の未来はあまりなくなるけど」というのは、動画では解説がなされていませんが、そういうことなのだと思います。
したがって、20代半ば~30歳あたりにピークを持ってきて、たとえば、オリンピックに出たい、というのであれば、上記の為末さんの意見を参考にして、入る高校は、よく考えたほうがいいかもしれません。
一方で、高校、大学で、インターハイ、高校駅伝、箱根駅伝あたりを最終目標にするのであれば、ガンガン走る高校に入学すればいいのではないかと思います。オリンピックだけが競技ではありません。インターハイ、高校駅伝、箱根駅伝も一生の宝になるでしょう。
また、『リディアードのランニングバイブル』で有名な中長距離走のコーチ、アーサー・リディアードは「子どもにダメージを与えるのは速く走り続けることであって、長く走り続けることではない」と述べており、実際にそのような気もするので、難しいですね。(実際は、強豪校と呼ばれる学校は、「速く走る」ことが多い気がしますが。)
中長距離走と喫煙、飲酒
瞬発性、野球、格闘系には喫煙はそれなりにいた。
有酸素系(中長距離走)は割合が低いと思う。
為末さんは喫煙はしなかった。飲酒は、それほどパフォーマンスが下がらないだろうと思って、1週間に1回は酒を飲んでいた。
選手は人間である。
パフォーマンスが低い場合、掘り下げると、両親が非常に厳しくて自分が言いたいことが言えなかった、だから、自分自身を表現することに表現がかかっている、といったことがある。
喫煙は良くないのだろうが、喫煙したほうが良かったんだろうね、という選手もいるだろう。
すべてはバランスで決まっている。喫煙、飲酒くらいはやめたほうがいいのだろうが。
筆者の意見
言い尽くされたことかもしれませんが、ガマンのし過ぎは、反動で逆効果になる可能性も高いと思います。
飲酒、喫煙は良くないのでしょうが、どうしてもしたかったら、0-100思考、All or nothing 思考ではなく、上限を決めるなどして、自分の欲望をコントロールする、といったことが大切なのでしょうね。
中長距離ランナーが気にしがちな、体重コントロール、甘いもの、なども同様かと思います。
研究では、代替できる、より害の少ないもので代替するとよい、などとするものもありますね。
中長距離走で合宿は意味がある?
合宿の一番のメリットは思い出づくり。競技力だけじゃないからね。
競技力にも意味はある。合宿をなんの目的でやっているのかが大切。
・大切なレースにピークを持っていくため
回復に2週間かかるとすると、大切なレースの2週間前まで合宿を行うことで、大切なレースにピークを持っていくことができる。
・冬にたくさん走る。どういうところを積極的に改善したいか。
・学び。トップチームに入れてもらって、練習のしかたを学ぶ。
筆者の意見
大切なレースにピークを持っていく「ピーキング」は、中長距離走においても、とても大切だと思います。
ピーキングの最も簡単な考え方は「大切なレースから遠い時期は、長い、重たい練習をやって、体に負荷をかける。大切なレースに近い時期は、レースペース前後の練習をして、長い、重たい練習の時期のダメージを回復しつつ(この過程で超回復が起こり、パフォーマンスが上がるはず)、研ぎ澄ます」というものではないかと考えます。
「長い、重たい」練習に集中するための良い環境が合宿ではないかと。
為末さんは、大切なレースの2週間前までの合宿を例に挙げました。中長距離走の場合、大切なレースの数ヶ月前に、それなりの期間、長い、重たい練習を行う合宿をするという、もっと長期間の調子の波を考えた合宿は有効だと考えています。
大人のサーキットトレーニングの注意点
プライメトリック、ボックスジャンプのような高いところから落ちてきてジャンプする類のようなものは、やらないほうがいい。できる範囲でやる。
「老いる」ということは「固くなる」こと。人間の筋や腱はゴムみたいなもの。加齢とともに固くなる。
それ以外は特に違いはないだろう。
サーキットトレーニングは痩せる。有酸素を含みながら全身トレーニングだからだろう。
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