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【感想】将棋界のゆかいな人々 編集者T君の謎(大崎善生、講談社文庫、角川文庫):元連盟職員が将棋界の裏側を語る

 

【感想】将棋界のゆかいな人々 編集者T君の謎(大崎善生、講談社文庫、角川文庫):元連盟職員が将棋界の裏側を語る

 

感想

著者は大崎善生さんです。
早稲田大学卒業。
ただし、大学にはあまり行かず、
新宿将棋センターで
ひたすら将棋を指していたそうです。
日本将棋連盟に就職し、
後に『将棋世界』誌の
編集長になります。

2000年、
29歳で早世した
村山聖九段のノンフィクション
『聖の青春』で作家デビュー。
この経緯も本書では書かれています。

2003年、女流棋士の
高橋和さんと結婚しています。

本書は2002年頃に
『週刊現代』誌に連載された
エッセイを再編集したものです。

 

第1章では、
羽生善治、加藤一二三、佐藤康光、
森下卓、村山聖、森内俊之、
谷川浩司、島朗といった、
当時のトップ棋士について
書いています。

加藤一二三九段が、
相手側から将棋盤を眺める
「ひふみんアイ」は、
近年、ひふみん人気によって、
将棋をよく知らない一般人にも
知られたかもしれません。
その加藤一二三九段が、
先後同型の局面で
「ひふみんアイ」をしていた話。

大崎善生さんが、
後の名人、現日本将棋連盟会長、
佐藤康光を怒鳴りつけた話。

挨拶の帝王、森下卓が、
大崎善生さんの授賞式の3日前から、
風邪をひいた自分の体調を
留守電に入れ続けた話。

村山聖と佐藤康光が、
なぜ感情むき出しの
ライバル関係だったのか。

谷川浩司が「光速流」の信用で
10勝ほど得しているが、
無理に詰ましに行って
10敗ほどしている話。

 

第2章では、
将棋界を訪れた有名人についても
書いています。

華原朋美が将棋会館の
道場に通っていた話。

村山富市元首相や
田中真紀子元外務大臣が
将棋会館を訪れた話。

本書の題名になっている
編集者T君も第2章で初登場します。

第3章では、
升田幸三、大山康晴、
森安秀光、芹沢博文といった、伝
説の名棋士について書いています。

日本将棋連盟に就職して
間もない大崎善生さんと、
十五世名人、時の日本将棋連盟会長、
大山康晴が、職員旅行の昼食の
イカソーメンが高いのどうのと
争った話は面白いです。

 

第4章では、
女流棋士について書いてあります。

米長邦雄の自宅で
先崎学とともに
内弟子をしていた林葉直子。
中倉彰子・宏美姉妹。
詰将棋で看寿賞を受賞した、大
崎善生さんと結婚する前の高橋和。
フリーセルの難問を前に
初手を動かさず40分考えつづけ、
投了した斎田晴子。
今は将棋界を去った坂東香菜子。

 

第5章では、
個性派棋士について書いています。

村山聖、山崎隆之、糸谷哲郎らの
師匠である森信雄。
ゴキゲン中飛車の創始者、
いつもゴキゲンな近藤正和。
パチスロの神様、中田功。
森信雄門下で奨励会を退会し、
世界を放浪した江越克将。
2021年にA級に初昇級した、
森信雄門下の山崎隆之。
奨励会三段リーグで、
競争相手三人が負けたために
四段昇段を果たし、
プロ入り後アマチュア快進撃の
ストッパー役を果たした、中座真。
渡辺明の師匠で
中国への将棋普及に
大きな貢献があった所司和晴。
真剣師、小池重明。

 

第6章は、
大崎善生さんの連載期間中の
ヨーロッパ放浪中の出来事、
ヨーロッパの将棋事情などについて
書かれています。

 

全体として、将棋界について、
面白おかしく、ユーモアを交えて、
かつ、敬意を持って
書かれていると思います。
一方、元将棋連盟の職員で
退職して外部の人間となった身から、
ほんの少し、
将棋界に対する辛口な進言も見られます。
もともと、『週刊現代』誌という、
将棋専門誌ではない雑誌への
連載なので、
将棋界をよく知らない一般人にも
わかりやすいと思います。

 

目次

1.天才たちのスーパーバトル

2.将棋中毒者の生活と意見

3.大棋士ここだけの話

4.今宵も女流は花ざかり

5.純情個性派に乾杯!

6.将棋は世界を駆け巡る

 

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【感想】藤井聡太論 将棋の未来(谷川浩司、講談社):十七世名人が藤井聡太の強さの秘密を語る

 

【感想】藤井聡太論 将棋の未来(谷川浩司、講談社)

 

 

オタク気質

 十七世名人の資格を持つ谷川浩司九段が藤井聡太さん(今後目まぐるしく称号が変化するでしょう)を語った本です。お2人の共通点は、中学生でプロ棋士になった、詰将棋が好きで、創作もする、鉄道が好き。オタク気質なのも似ているのかもしれませんね。何かに没頭する集中力が将棋に向かったので強い、ということでしょうか。
 谷川浩司九段も、藤井聡太さんのケタ外れの「頭の体力」を語り、「将棋がとてつもなく好きだ」と感じたそうです。つまり「将棋を考えることが好き」。「頭の体力」ということもあるでしょうが、好きなことに没頭している、という面も大きいのではないでしょうか。

 藤井聡太さんは、一時期、常に相手よりも持ち時間を消費しがちで、終盤に時間が残っていない(それでも終盤で間違えないのですが)と言われたことがあります。そのことについて、藤井聡太さんは

「わからないまま指してしまうと、結局考えた意味がなくなってしまうと思っているんです。(中略)なるべく考えたところで自分なりに判断の根拠を持って指したいと思っています。」

と語っています。谷川浩司九段も今は、ペース配分を考えるよりも、そのような「読み切ろう」という姿勢のままでいい、と述べています。そのような、心理を追求しよう、という姿勢の人のほうが、伸びるのでしょうね。

 

パターン認識能力

 2018年、朝日杯将棋オープンの準決勝で藤井聡太さんに敗れた羽生善治九段は、藤井聡太さんを評して

「局面を形から認識する能力が優れていると感じる。」
「パターンを形から認識する力が非常に高い。」

と語りました。谷川九段は、「局面の認識能力」が最も高いのは羽生さん自身だと思っていたので、驚いたそうです。
 受験の算数、数学では「思考」派VS「暗記」派で不毛な論争がされがちです。しかし、羽生九段や藤井聡太さんのような、心理を追求しようという姿勢の人たちが「パターン認識」も大切だと考えています。受験の算数、数学においても、大切なのは、「思考」と「記憶」の「バランス」なのだと思います。

 

運を大切にする

 藤井聡太さんが、早めに対局室で座っていることは、将棋ファンの間では有名かもしれません。これを、谷川浩司九段は、「将棋の神様に味方してもらう」「運を逃さないようにする」ためだと述べています。さらに、対局場への入りだけでなく、対局時の作法、服装、普段の生活などもそうだと述べています。将棋の世界のみならず、他の分野でも、真摯に向き合っている人に、「運」は訪れるのでしょう。これは決してスピリチュアルなものではなく、普段から、そのようなことを心がけている人のほうが、何らかの理由で、パフォーマンスが高くなるのだと思います。
 こうした人間性の面から見ても、藤井聡太さんはトップに立つにふさわしい人物と言えるのでしょう。

 

目次

1.進化する藤井将棋
2.最強棋士の風景
3.不動のメンタル
4.「将棋の神様」の加護
5.「面白い将棋」の秘密
6.AI革命を生きる棋士
7.混沌の令和将棋

 

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【感想】証言 羽生世代(講談社現代新書):羽生世代の強さを観戦記者がインタビュー、分析!

 

【感想】証言 羽生世代(講談社現代新書):羽生世代の強さを観戦記者がインタビュー、分析!

 

感想

著者は、大川慎太郎さんという
将棋の観戦記者の方です。

本書では「羽生世代」を、
おおむね、

羽生善治とほぼ同学年、
かつ、
奨励会入会がほぼ同期、
かつ、強豪

としているようです。
具体的には、
同学年、同期の森内俊之、郷田真隆。
加えて、1学年上で同期の佐藤康光です。

著者が聞きたかったことは、羽生世代が
・なぜ強く、長年活躍したのか
・それまでの棋士と何が違うのか
・なぜ1970年前後生まれに集まったのか
といったあたりのようです。

 

羽生世代の突き上げを受けた世代

谷川浩司
島朗
森下卓
室岡克彦

の4人に話を聞いています。
谷川九段は、
トップ棋士が持つべきものと、
それをいちばん自然に
実践できているのが
羽生さんであると述べています。

羽生世代の共通点として
「将棋に対する敬意」を挙げています。
自分が取り組んでいるものに
対する敬意。
大切なことかもしれないですね。

また、羽生さんの1学年上で
A級在位のまま29歳で早世した
村山聖の存在を挙げ、
健康で将棋を指せることの
幸せを一番実感している
のではないか、と述べています。
これも、健康への感謝、
将棋への敬意ということでしょう。

島九段は、
羽生、森内、佐藤と行った、
伝説の島研について述べています。

また、羽生世代が感覚ではなく
読みの深さに特徴があるとしつつも、
最後の「精神世代」であると
述べています。
合理性と精神。
両方必要、バランスが大切なのでしょう。

一方、森下九段は、
羽生世代は、
人間力の勝負を否定して
「技術が全て」と明確に打ち出した、
と述べています。
このあたり、棋士によっても、
見方が違うようですね。
ただ、森下九段も、羽生世代を、
羽生さんの変化を感じる
感性の持ち主だった、と、
人間臭いことを述べているのは
面白いですね。

 

同じ時代にくくられる葛藤

藤井猛
先崎学
豊川孝弘
飯塚祐紀

の4人に話を聞いています。

藤井九段は、羽生世代より奨励会入りが遅いです。1970年生まれ前後に、これだけ強い人が集中した理由に、谷川「名人」を挙げています。将棋の印象が良くなり、親が許可しやすくなったのではないかと。まあ、現在も、親が、親世代にイメージの良い就職先を勧める、ということもあるようですし、そのような面はあるかもしれませんね。

先崎九段は、ほぼ同期で、同学年ですが、タイトルを獲っていません。羽生さんの強さの1つに、中学生の時、八王子駅まで○○していたことを挙げています。対局料で○○を買った時は、すごいうれしそうだったそうです(笑)。

豊川孝弘七段、飯塚祐紀七段は、少し年長ですが、奨励会同期です。

 

世代交代に挑む

渡辺明
深浦康市
久保利明
佐藤天彦

の4人に話を聞いています。
羽生世代の後輩です。

渡辺名人は、
AI全盛の現在よりも、
羽生世代と指していた時のほうが、
ハイレベルだった、
という意外な意見を述べています。
もちろん、
純粋な勝負という面では、
AIのほうが強いでしょう。
しかし、渡辺名人は、
ソフトに頼ることによって、
棋士のピークの訪れが早くなり、
自分も、その対策として、
自分の頭で考える癖を
つけるようにしている、
と述べています。

深浦九段も、羽生世代から
「自分の頭で考えること」を
学んだと述べています。

AIと自分の頭で考える。
この問題に結論が出るのは、
10年ほど後、
AIを駆使して勝っている
今の若手がどうなっているかを
楽しみにしましょうか。

久保九段は、
羽生世代から
「二日酔いになったり、
ギャンブルをしたり、
しない人がトップになるんだな」
と学んだそうです。
これに関しては、
囲碁の藤沢秀行名誉棋聖のような
人もいるので、
何とも言えないですね(笑)。
まあ、例外を許すという意味での
一般論としては、
そうなのかもしれません。

「貴族」のニックネームがある
佐藤天彦九段は、
羽生さんからは
「芸を執り行うような雰囲気」
を感じると述べています。
「貴族」ならではの独特の感性ですね。

 

羽生世代の「これから」

佐藤康光
郷田真隆
森内俊之
羽生善治

の4人に話を聞いています。

佐藤康光九段、会長は、
羽生世代と羽生さんは
区切ったほうがいい、
とご謙遜されています。
また「自分の頭で考える」という、
少し後輩から出たキーワードも、
佐藤会長から語られます。

森内九段、羽生九段も、
この世代に強い人が集中した理由に、
谷川「名人」を挙げています。
本音なのかもしれませんが、
このあたりの謙虚さ、他者への敬意、
人間性も強さの秘密かもしれないですね。

 

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