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Contents
中長距離走の練習法:『リディアードのランニングバイブル』とジャック・ダニエルズを基本に組み立てる
このサイトでは
「リディアードのランニングバイブル」
「ダニエルズのランニングフォーミュラ」
の2冊の世界的コーチの著書を参考に、
中長距離の練習法を考えます。
中長距離の本質は
レースの距離をレースペースで走り抜く
ことと考え、
リディアードとダニエルズの特徴を
組み合わせた練習法を考えます。
リディアードのランニングバイブル
リディアードのランニングバイブルの感想、レビュー
アーサー・リディアードは1917年生まれ。
1960年のローマオリンピックでは、
弟子のスネルが800m金
ハルバーグが5000m金
マギーがマラソン銅の快挙。
1964年の東京オリンピックでは
スネルは中距離2冠。
古いんじゃないの?
と思われるかもしれませんが、
「ランニングバイブル」は
わかりやすいながらも、
運動生理学について書かれています。
また、現場のコーチでもあるので、
現場のエピソードも多く、面白いです。
読み物としてもとても面白いと思います。
1.リディアード式の運動生理学
「大学の研究、科学」と
「現場の実践」のバランスが
必要なのだと思います。
「大学の研究者」は
「現場は非科学的だ」と言い、
現場の指導者は
「研究者は机上の空論で、現場を知らない」
と言う、ということが、
陸上競技のみならず、
様々な分野で起こっていると思います。
リディアードの主張は
「無酸素能力は限界がある。
したがって、
有酸素エネルギーで走れる
走スピードを高めることが大切。
そのためには、
長時間の有酸素ランニングをする。
それも、ゆっくり走るのでは
効果が薄く、
有酸素ランニングの範囲で
なるべく速く走る。」
というものです。
400mのレペティション
(日本で言うインターバル)
を好んで行っていたコーチが、
リディアード式の有酸素ランニングを
取り入れたところ、
レペティションのタイムは遅くなったが、
1マイルレースのタイムは
大きく伸びたという
エピソードが語られます。
「それまで僕は、
優れた400mのレペティション向きの
ランナーを育てていた
だけだったわけです。」
2.有酸素能力を高める
中長距離のトレーニングの
究極の狙いは
「レースの距離を、
目標タイムのスピードで走り切る、
スタミナをつけること」です。
東京オリンピックの
800m金メダリストの
ピーター・スネル(1500mと2冠)は、
決勝に残った選手の中では、
もっともスプリントがなかったそうです、
しかし、リディアード式
有酸素ランニングで養った
スタミナが勝因だろうと述べています。
この記事を書いている筆者も、
経験的に、スプリントは足りなくても、5
000mのタイムがいい800mの選手は、
極端なスローペースでない限り、ラ
スト、周りが落ちていく中、
相対的に上がっていくように思います。
では、有酸素ランニングのペースは
どのくらいかというと
「走り終えた時、心地よく疲れているが、
もう少し速く走ろうと思えば走れた」
ペースです。このあたりは、
体感、感覚が大切だと思いますが、
具体的には、下記の『
ダニエルズのランニングフォーミュラ』
では、数値化されています。
3.ヒルトレーニング
リディアードも、
有酸素ランニングだけで
レースに勝てるとは思っていません。
リディアードは、
ヒル(坂)トレーニングで
スプリントを養成することを勧めています。
ヒルトレーニングについては、
本書でも連続写真で
やり方を説明していますが、
リディアードの弟子の
橋爪伸也さんの著書
『リディアードのランニング・トレーニング』
(ベースボール・マガジン社)では、
動画を見ることができます。
ちなみに、Webサイト
「The science of running」
のスティーブ・マグネス氏は
このページで、
「リディアードの弟子が
ラストスパートに強かったのは、
有酸素ランニングのおかげではなく、
ヒルトレーニングのおかげ」
と述べています。しかし、
スパート勝負の前に
脚を使い切ってしまっていたら、
どんなにスプリントがあっても、
スパートに勝てませんから、
有酸素ランニングとヒルトレーニングと、
両方の調和のおかげなのではないでしょうか。
4.スタミナとスピードの協調
「盲目的なトレーニング
をしていては、
望む結果は得られない」
「中には、チャンピオンが
以前やっていたトレーニングを、
そのスケジュールの意味も
(中略)まるで理解しないで
そっくりそのまま真似をしている
ものもいる。」
「まず選手は、
なぜそのトレーニングをするのか、
自分の取り組もうとする
トレーニングの効果を
理解しなければならない。」
「トラックトレーニングの
スケジュールは、
しっかりとしたスタミナの
土台がなければ何の価値もない」
「必要な材料を入れ忘れれば、
ケーキは絶対にうまく
焼き上がらないのである。」
上記のことは、中長距離走、
陸上競技のみならず、
あらゆることに当てはまりますね。
よく、
「インターバル
(本書ではレペティション)
でスピードをつける」
ということを聞きます。
ここで「スピード」という言葉も
解釈が必要な言葉で、
難しいところですが、
スプリントを養成するのは、
リディアードが言う
「スプリントトレーニング」です。
「インターバル」は、
無酸素能力を開発する、
または、レースを目標タイムの
スピードで走るために分割走をする、
というのが、主な意味かと思います。
インターバル(本書ではレペティション)
の意義については、
リディアードの弟子の
橋爪伸也さんの著書
『リディアードのランニング・トレーニング』
(ベースボール・マガジン社)
でより深く説明されています。
14.トレーニングスケジュール例
種目別、年齢別に、
練習メニューが示されます。
ただ、実際には自分が青年でも
体力が中学生レベルだと思ったら、
中学生向けの練習をするのが、
記録の向上、故障の予防に
大切だと思います。
194ページの本ですが、
練習メニューに関する記述は
1~4章と14章だけなので、
スラスラ読めるかと思います。
ただ、その部分の内容は、
いついかなるときでも
思い浮かぶようにしましょう。
リディアード式をまとめると、
有酸素練習を重視し、
狙うレースから逆算して
トラック練習をこなし、
ピークを合わせることに
特徴があるように思います。
よほど、僅差を追求する、
優れた指導者、選手でない限り、
この本1冊で足りる、かつ、
他に手を広げた結果、
本書の内容すら徹底できない、
ということになると思います。
ダニエルズのランニングフォーミュラ
ダニエルズのランニングフォーミュラの感想、レビュー
ジャック・ダニエルズは
1933年生まれ。
主に、アメリカの大学で指導し、
「ランナーズ・ワールド」誌で
世界最高の指導者との
評価を得てきたそうです。
自身はオリンピック近代5種競技で
2度メダルを獲得しています。
運動生理学の博士号も
持っているそうです。
1.成功の必須要素
練習メニュー、走りの技術の前に、
指導者が心がけるべきことが
書いてあります。
・素質あり、意欲あり
・素質あり、意欲なし
・素質なし、意欲あり
それぞれにどのように接するべきか。
これは陸上競技のみならず、
他の分野にも当てはまりますね。
2-1.トレーニングの原理
トレーニングの根本原理は、
「刺激に対し休養中に強化が起こる」
ことです。
そして、体力の向上に伴い、
刺激の強度も上げなくては、
トレーニングの効果が薄れます。
その、刺激の上げ方のコツも
書かれています。
また「能力維持の原理」として
「体力の向上は大変だが、
体力の維持は難しくない」
といったことが述べられます。
これはランナーにとって、
大切な考え方でしょう。
2-2.ランニング技術
ピッチは1分間あたり何歩がいいのか、
呼吸はどのようにすればよいのか
などが書かれています。
3.有酸素性作業能
ジャック・ダニエルズは
VO2MAX時の走スピードを
vVO2MAXと名づけています。
ただ、結局、リディアードの言う
有酸素性でどれだけ早く走れるか、
という話と同じなので、
面倒くさかったら第3章は
飛ばしていいと思います。
4.トレーニングの種類と強度
・イージーランニング(E)
・ロング走(L)
・マラソンペース(M)
・閾値ランニング(T)
・インターバル(I)
・レペティション(R)
といった、後に練習メニューに出てくる
練習の求める成果、ペース、ポイント
などが述べられます。
しっかり読んで、理解したいです。
世の中では、
「ペース走8,000m」
などという練習が行われています。
ダニエルズの特徴の1つは、
T(LTあたり)ペースの練習を
分割して走ることです。
おそらく、故障やオーバートレーニングを
考えてのことなのでしょう。
5.VDOT
ダニエルズが作成した、
種目の持ち記録と、
上記E、T、Iなどの練習ペースの
対応表が載っています。
また、E、T、Iなどの練習を
走った距離でポイント化し、
故障の予防、
トレーニング強度の指針、
などにする試みがされています。
6.期分け
リディアードも
レースから遠い時期は
有酸素ランニングを多く行い、
レースが近づくと
トラック練習を行う、
といった期分けを行っています。
7.体力向上
陸上競技の雑誌やネット記事に
トップレベルの選手の
練習メニューが載ったとして、
初心者がそれをマネするのは不適切です。
本書では、初心者が
どのように体力を向上させればよいか、
「ウォーク5分」から親切に
練習メニュー例が書かれています。
9~14.各種目のトレーニング
800m~マラソンの
トレーニング例が載っています。
ダニエルズの特徴は、
同じ種目の中でも
週間走行距離によって
メニューをわけていることです。
ただし、リディアードも
年齢別にメニューを分けており、
ほぼ同じですが、
週間走行距離のほうが
個人個人の実態にあっているとは言えます。
この部分も、丸マネするのではなく
根底にある考え方を理解することが
大切でしょう。
また、たとえば、
800mの選手にMペース
(マラソンペース)の練習を
課している部分がありますが、
個人的には細かすぎると思います(笑)。
Eペースでいいのではないでしょうか。
ダニエルズは持ち記録からの
トレーニングペースの設定、
トレーニング強度の数値化などの
緻密性、具体性に特徴があると思います。
参考までに「フォーミュラ」は、
一般的には公式という意味で使われます。
ダニエルズのランニングフォーミュラ第3版第1刷の誤植
87ページRゾーンの表。
5分から30分の値はこの2倍。
原書と同じ値だが、流れから考えて、
おそらく原書が間違っている。
114ページ1行目。 ×レッド→○ブルー
原書で確認。
190ページ11~10週の表のEの最後。
×E16km→○E10分
×E32km→○E20分
原書はE10、E20となっているが、
おそらく流れから考えて、
単位はマイルではなく
分だと思われる。
リディアードのランニング・トレーニング(橋爪伸也、ベースボール・マガジン社)
『リディアードのランニング・トレーニング』の著者
著者の橋爪伸也さんは、
1980年頃からの
リディアードの弟子で、
日立陸上部の初代コーチも
務められたそうです。
『リディアードのランニング・トレーニング』の感想、レビュー
リディアードって古いの?
橋爪伸也さんは、本書ではありませんが、
『リディアードのランニングバイブル』
(大修館書店)の訳者(小松美冬さん)
まえがきにも登場します。
「アーサー(リディアード)の
トレーニング論が古い
なんていっているの、
日本だけじゃない?」
というFAXの内容が紹介されています。
一時期話題になった
ナイキ・オレゴン・プロジェクトの
元コーチ、スティーブ・マグネス氏の
サイトでも、
リディアードの名前は何回も登場します。
最先端のトレーニングと言われた
ナイキ・オレゴン・プロジェクトの
関係者が何度も言及するような人が、
古くさい人でしょうか?
リディアードが古いかどうかを
判断する資格があるのは、
有酸素ランニングを90分しても
それほど疲労を残さない体力をつけ
ヒルトレーニングを実行して
スプリントとスピード持久力を養成し
無酸素トレーニングをして、
有酸素能力、スプリント、
無酸素能力を協調させたことがある
人だけです。
ケニア人はなぜ速いか?
本家
『リディアードのランニングバイブル』
でも、ケニア人の強さの理由は、
学校まで走って行くことにより、
有酸素能力が開発されているから、
とされています。
たとえば、
陸上競技の月刊誌やネット記事に、
トップレベルの選手の練習メニューが
載ったとしましょう。
トラックをビュンビュン走っています。
そのようなメニューを、
たとえば、800mを2’00″、
1500mを4’10″程度の大学生が
マネをして、記録は順調に
伸びるでしょうか?
おそらく、
それほど記録が伸びないだけなら
まだマシなほうで、
再起不能レベルの故障をする
可能性も高いと思います。
大学の中距離パートというのは、
そのような場所になりがちである
気がします。
マネをするのであれば、
「学校に走って通う」
に相当するトレーニングから、
マネをしなければなりません。
つまり、リディアードの言う
「有酸素ランニング」です。
何年か前、高橋尚子さんが、
日本女子マラソンの状況について
「もっと泥臭い練習をしたほうが
いいのではないか」
と言ったことがあります。
おそらく、現在の日本女子マラソンも、
世界トップ選手の
「現在の」練習を表面的にマネをして、
「学校に走って通う」
部分を見落としている
傾向があるのではないでしょうか。
誰でも走れるようになる
リディアード式で、
20人の中年の心臓病患者が
8ヶ月で全員が32kmを走った、
という話が載っています。
ただし、このあたりの
全くの初心者がフルマラソンを
完走するようなノウハウは、
今や、マラソンの本、記事や、
『ダニエルズのランニングフォーミュラ』
などにも載っており、
特に目新しくはないでしょう。
乳酸
乳酸性閾値、LTを超えると
急に乳酸が増える話が出てきます。
最近の本にふさわしく、
乳酸は疲労物質ではなく、
解糖に伴う水素イオンによる
pHの低下が筋収縮を困難にする、
と説明されています。
タバタ式トレーニングへの懐疑
タバタ式トレーニングにも
メリットはあると思います。
高強度の運動を20秒、
10秒のリカバリー、
それを8セットで4分間。
それで最大酸素摂取量が向上する。
しかし、本書にもあるように
特に長距離走においては、
最大酸素摂取量が向上したところで、
筋持久力をはじめ、
長時間の有酸素ランニングにより
得られるものが得られないので、
ちゃんと長時間の有酸素ランニングを
こなすべきでしょう。
ミトコンドリアと「シャープナー」
『リディアードのランニングバイブル』
の謎の1つは、
シャープナーという練習でした。
50mダッシュと50m流しをくり返す。
そんなことできるかと(笑)。
本書では、シャープナーのやりかたが
解説されます。
また、有酸素エネルギーは
細胞内のミトコンドリアで
生成されます。
有酸素ランニングを行う意義の1つは
ミトコンドリアの数と大きさを
向上させることです。
最近の研究によると
ミトコンドリアの
「機能」を向上させるには、
150~200%LT、つまり、
シャープナー程度の走スピードが
ちょうど良いとのことです。
有酸素ランニングの後のシャープナー。
リディアード式と運動生理学が
また結びつきました。
心拍数を基準にする?
『ダニエルズのランニングフォーミュラ』
でも、心拍数で、機械的に
220 ー(年齢)
の公式を使うのは適切ではなく、
自分の正確な最大心拍数を
知る必要がある、とされます。
本書でも、もう少し複雑な
公式が紹介されています。
セバスチャン・コーの話
2021年現在でも
セバスチャン・コーの800mの
1’41″73(1981年)は
世界歴代3位です。
本書によると、
セバスチャン・コーの父親であり
コーチであるピーター・コーが
「スピード持久力」という
トレーニングを編み出したそうです。
たしかに、この記事を書いている私も、
セバスチャン・コーといえば、
トラックをビュンビュン走っている
イメージです。
しかし、本書によると、
ピーター・コーとの共著もある
(『中距離ランナーの科学的トレーニング』
(大修館書店))
マーティン博士は
「セバスチャン・コー
のトレーニングほど
リディアードの影響を受けている
トレーニングはない!」
と言っているそうです。
また、ピーター・コーが
セバスチャン・コーが不調の時、
リディアードと連絡を取ったという
エピソードも語られます。
ヒル(坂)トレーニング
『リディアードのランニングバイブル』
では、連続写真と文章での説明に
とどまりましたが、
本書では、動画を見ることができます。
Webサイト
「The science of running」
のスティーブ・マグネス氏は
このページで、
「リディアードの弟子が
ラストスパートに強かったのは、
有酸素ランニングのおかげではなく、
ヒルトレーニングのおかげ」
と述べています。
この記事を書いている私は、
高い有酸素能力で脚を残し、
かつ、ヒルトレーニングで
スピード、スピード持久力を
養成したから、だと思っています。
まとめ
『リディアードのランニングバイブル』
を買わずに、本書だけを買うのは
オススメできません。
1冊目は『ランニングバイブル』です。
あくまでも、
『ランニングバイブル』の
解説書、裏話、的な本です。
具体的な練習方法などは
もうひとつわかりにくいです。
ただし、リディアードのファンであれば
必読でしょう。
たとえば、上記のように、
『ランニングバイブル』では
シャープナーのやり方が
わかりにくいですし、
本書では、ヒルトレーニングの動画を
見ることができます。
リディアード式と最新の運動生理学を
結びつけるような話も、
所々に出てきます。
より、リディアード式のトレーニングを
する意欲が湧いてくると思います。
『The Science of Running』(スティーブ・マグネス)
駅伝日本一、世羅高校に学ぶ「脱管理」のチームづくり(岩本真弥、光文社新書)
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