中長距離走の運動生理学:ATP、VO2MAX、LT、疲労、なぜトレーニングで適応が得られる?

 

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中長距離の運動生理学:ATP、VO2MAX、LT、疲労、なぜトレーニングで適応が得られる?

 

今さら聞けない中長距離の運動生理学

周りが「有酸素、無酸素」とか
「LT」とか言っていて、
意味がわからずに
悩んでいませんか?

実は、これらの用語の
意味を理解すると、
日々の練習の意味を
理解することができ、
効率的に記録を
伸ばすことができます。
本記事を読めば、
運動生理学の基本から、
マニアックなところまで、
理解することができます。

 

走るためのエネルギー:ATP

走るためのエネルギーは
筋肉中のアデノシン3リン酸
(ATP)の分解によって供給されます。

走り続けるためには
分解したATPを
再合成しなくてはなりません。

そのための機構は3つに分類されます。

1.クレアチンリン酸の分解
 最大強度で8秒ほど継続。

2.グリコーゲン等の無酸素的分解
 この機構では乳酸が発生。
 最大強度で33秒ほど継続。

3.グリコーゲン、脂肪酸等の有酸素的分解
 外から酸素を取り入れ長時間継続。

中長距離走では、3の
有酸素エネルギーを多く必要とします。

有酸素性エネルギー:無酸素エネルギーの
具体的な割合は男子の場合

800m   60:40ほど[1]
1500m    77:23ほど[2]
5000m~ ほどんど有酸素性

とされます。
女子はレースの時間が長いので、
さらに有酸素性に寄ります。

 

VOMAX(ヴイドットオーツーマックス)

最大酸素摂取量
体重1kgあたり、1分あたり
最大何mLの酸素を消費するかの値。
VはVolume(体積)
ドットは1分あたり
(大学の数学で習います)を表します。
ジャック・ダニエルズによると、
11分ほど継続できる運動が
100%VOMAXに当たるそうです。
(5分程度という説もあります。)
VOMAXを改善するには、
VOMAX付近で走るのが
良いとされます。
ただ、ある程度トレーニングをすると、
頭打ちになりやすいとも言われます。

 

LT(Lactate Threshold)

乳酸性作業閾値
血中乳酸濃度が急激に上昇する運動強度。
上記のように、
グリコーゲン等の無気的分解では
乳酸が発生するので、
無気的な機構が
それなりに動員される走スピード、
つまり有酸素能力の指標となります。
ジャック・ダニエルズによると、
60分走り続けられるペースくらいが
LTに当たるそうです。
エリートならハーフマラソンあたりですね。
LTを改善するには、
LT付近で走るのが良いとされます。
LTはわりと向上し続けることが
できるとされます。

 

無酸素能力?

このあたり、運動生理学も
錯綜しているようです。
有酸素能力を超えたスピードで
走る能力としておきます。
リディアードは、
このような能力はすぐに頭打ちになり、
個人差はあまりないので、
無酸素性トレーニングは
それほど重要ではないと主張します。

ただし、その限界までは
引き上げなければなりません。
眠っている速筋を起こす
(平時に動員されない速筋を動員する)
ことで、無酸素性のエネルギー機構を
高めることなどが大切です。

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疲労とはなにか?

中長距離走の本質の1つに
疲労との戦いがあると思います。

公益財団法人長寿科学振興財団のサイト
では、疲労を

痛みや発熱と同様に「これ以上、運動や仕事などの作業を続けると体に害が及びますよ」という人間の生体における警報のひとつです。疲労は、人間が生命を維持するために身体の状態や機能を一定に保とうとする恒常性(ホメオスタシス)のひとつとして、痛みや発熱などと並んでそれ以上の活動を制限するサインとして働いています。

としています。

ランニングにおいて、疲労の原因は、
副産物(乳酸ではない)や
枯渇(グリコーゲンなど)
の問題だと考えられてきました。

一方、近年、上記のように、
恒常性、ホメオスタシスの問題
であるという学説が
有力になっているようです。
例えば、暑い中で運動をしていて
体温が上がると、
脳はその情報を受け取り、
体温の上昇を抑えるために
筋繊維の動員を停止させる。

脳は本来、体の正常なプロセスが
ホメオスタシスから離れすぎないように
することを目的とした
安全機構として機能します。
その究極の目的は、
危害やダメージから身を守ることです。
私たちが正常な状態から
大きく逸脱し始めると、
脳が介入して仕事量を抑制します。
グリコーゲンが不足したり、
体温が上がりすぎたり、
脳への酸素が減少したりすると、
さまざまな形で抑制されます。

近年の研究では、脳は
・脳と末梢の酸素濃度
・二酸化炭素濃度
・水素イオン、乳酸、カルシウム、フリーラジカル
・筋肉のpH
・筋肉へのダメージ
・グリコーゲンの貯蔵量
などを監視し、恒常性、ホメオスタシスから
大きくはずれた「危険なレベル」に近づくと、
脳が正常な範囲内に保つために
疲労を引き起こす、
という説が有力のようです。

つまり、「死なないように」
「疲労」という安全装置、
リミッターがあるわけです。
そう考えると、中長距離走で、
より良い記録で走るということは、
より死に近づくということです。
このように考えると、
中長距離走のトレーニングも、
中長距離走自体も、なんだか哲学的ですね。

 

トレーニング刺激によって適応が得られるメカニズム(難しい)

トレーニング刺激を施すと、
メッセンジャー
(ホルモンなどの化学物質や、
圧力等の物理刺激も含む)
と呼ばれるものにより、
細胞外から細胞に、
刺激が伝えられます。
そして、シグナル伝達
(細胞によって、
ある種のシグナル(情報)が
他の種類のシグナルに
変換される過程)により、
最終的には細胞の機能変化や
核内の転写因子による
特定遺伝子の転写調節
などを起こします。
転写因子とは、
遺伝子の発現を制御するタンパク質です。
DNAの特定の領域に
結合することによって
その領域の遺伝子の転写を
促進または阻害する役割を持ちます。
つまり、同じ遺伝子をもっていても、
その遺伝子は、環境次第で
ON、OFFが変化するということです。
(高校生物で習います。)
そして、DNAから転写された
mRNAにより
タンパク質が作られます。
(高校生物で習います。)

たとえば、有酸素運動を行い、
上記のようなメカニズムで、
ミトコンドリアを作る
タンパク質が作られれば、
ミトコンドリアが増え、
有酸素能力の向上が期待できる、
ということです。

 

人体は複雑:ミトコンドリアを例に

HIIT(高強度インターバルトレーニング)
一種である、タバタ式トレーニング
を行うと、ミトコンドリアの数が増える
話題になりました。
タバタ式トレーニングは、
「20秒の運動と10秒の休息を
 1セットとして、8セットで
 疲労困憊に至る間欠運動
であり、4分で終わります。
確かに、短時間でも、
激しい運動をすると、
呼吸が激しくなりますから
酸素を必要としているはずで、
ミトコンドリアに適応が起きそうです。

一方、呼吸は乱れなくても
ゆっくり長時間走り続けると、
酸素を大量に必要としますから
ミトコンドリアに適応が起きそうです。
リディアードのランニング・トレーニング
(p76)には、最近のリサーチでは
「ミトコンドリアの数と体積の増加には
 運動継続時間が最も影響をもたらす。
 ミトコンドリアの機能の向上には
 150~200%LTの走スピードが良い。」
と書いてあります。

「ミトコンドリアの機能」と言っても
よくわかりませんが、
たとえば、
「ミトコンドリアの酸化系酵素の増加」
などのことでしょう。

つまり、1つ
ミトコンドリアだけを取り上げても
数、体積、機能など、
要素は様々で、
それらを向上させる手段も様々だ
ということです。
しかも、人体はさらに複雑です。
わかっていないことだらけです。

1つ言えるのは、
以上のようなことを、ある程度理解した上で、
自分の種目に関わる要素を全てを
最大限に引き上げるために
バランスを考えつつ、
さまざまなトレーニングを行うべき、
ということです。

 

人体は複雑2:酸素を例に

高校生物で習うように、
有酸素エネルギーは
ミトコンドリアで産生されます。
しかし、中長距離走と「酸素」を
考えた時、
「吸入」「運搬」「筋肉での利用」
と、やはり、事情は複雑であることが
わかります。

たとえば、貧血になると
パフォーマンスが落ちるのは、
「酸素」問題のどこかに
ボトルネックが生じるからでしょう。

先述のように、
人体はわからないことだらけですが、
なるべくこのようなことを意識して
自分のボトルネックを解消するような
トレーニングを目指すべきでしょう。

 

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