【中長距離走】乳酸除去能力の高め方:5000m、10000m、ハーフマラソン、マラソン
乳酸は敵か味方か?
ランナーに疲労の原因を尋ねると、ほとんどの場合、乳酸と答が返ってきます。この言葉を聞いただけで、レース終盤の激痛や苦闘、悪名高い尻もちなどの記憶がよみがえります。しかし、現在の運動生理学では、乳酸は疲労物質ではない、ということになっています。ランナーの味方であり、敵ではありません。乳酸は、悪者ではなく、速く走るための重要な燃料源なのです。
乳酸が悪者扱いされているのはなぜでしょうか?速く走れば走るほど、乳酸の生産量と消費量は増えます。よく訓練されたランナーであれば、乳酸を生産してもすぐに「排出」することができます。しかし、ある時点で、速く走ったため、あるいは速いペースを長く維持したために、血流から排出できる量よりも多くの乳酸が生成されるようになります。このとき、乳酸生成に伴う水素イオンは、エネルギー生成に使われる酵素を停止させ、カルシウムの取り込みを阻害する可能性があります。その結果、筋肉の収縮能力が低下し、減速せざるを得なくなるのです。つまり、一般的に「乳酸」に関連するすべての感覚は、乳酸を生成するのと同じくらい速く処理できなくなったときに現れるのです。
LT走(テンポ走)やクルーズインターバル(LTペースで行うインターバル)は、この問題を解決するための伝統的なトレーニング手段です。これらのトレーニングは、乳酸の産生が進むにつれて乳酸を除去する能力、または耐性を向上させることで、より速いペースをより長く維持することを可能にします。しかし、エリートコーチやケニア人アスリートは、レース中に乳酸の使用量を増やし、乳酸とそれに付随する疲労物質をより早く排出できるよう、新たな工夫を凝らしています。
乳酸除去能力を高めるには?
イタリアのコーチであるレナート・カノーヴァ(Renato Canova)は、東アフリカのランナーは欧米のランナーよりもレース中のスピードで乳酸を排出する能力が高いと信じています。多くのランナーは、LT走、あるいは15kmからハーフマラソンまでのレースペースであれば、乳酸を素早く排出することができますが、それ以上になると排出メカニズムに負担がかかり、血中に乳酸がどんどん流れ込んできます。
この問題を解決するために、私達はLT走を継続的に行い、乳酸を除去する能力を徐々に向上させる傾向にあります。この方法の第一の欠点は、より速いレースペースで乳酸を除去することを身体に教えることがほとんどできないことです。もうひとつは、LT走の場合、乳酸の排出は比較的一定なので、より速く排出する方法を考えなければならないほど、身体にストレスがかからないということです。
このような欠点を回避するために、2つのトレーニングが利用できます。つまり、乳酸の産生を高めるために速く走る区間と、それまでに産生された乳酸を排出するためにゆっくり走る区間が続くようにするのです。
alternations(交互)
最初の方法は、レナート・カノーヴァがalternations(交互)と呼ぶものです。alternationsは、連続したランニングで、少し速く走る区間と少し遅く走る区間を交互に繰り返すものです。ハーフマラソンやそれ以下のレースでは、1区間はレースペース、もう1区間は従来のLTペースよりやや遅めのペースで走るのが目標です。この場合、通常のLT走のペースより1マイルあたり20秒から40秒遅いペースを目安にするとよいでしょう。トレーニング期間中、この区間のペースを徐々に上げていき、2つの区間のペースの差が小さくなるようにします。マラソンのトレーニングでは、レースペースと、最初は1マイルあたり15〜20秒速いペースを交互に繰り返すことで、マラソンペースでも乳酸を燃料として使用できるように体を鍛えます。
以下は、ハーフマラソンまでの交互走の流れです。
ハーフマラソンのためのalternations
ハーフマラソンまでの10週間、この一連のトレーニングを行い、レースペースでの乳酸除去能力を向上させる。RP=ハーフマラソンの目標ペース。
10週前
400m(RP+3秒/km)と1200m(RP+25秒/km)を交互に10km。
8週前
600m(RP)と1000m(RP+22秒/km)を交互に10km。
6週前
800m(RP-3秒/km)と800m(RP+22秒/km)を交互にを交互に10km。
4週前
1000m(RP-6秒/km)と600m(RP+19秒/km)を交互に12~13km。
2週前
1000m(RP-6秒/km)と600m(RP+12秒/km)を交互に12~13km。
blends(混ぜる)
乳酸除去能力を向上させるための新しいトレーニングの2つ目は、blendsです。「乳酸を素早く除去する能力を高めるために、長いインターバルと短いインターバルを混ぜる」ものだとレナート・カノーバは言います。
この方法は、休憩時間を挟んでインターバル方式で行うことを除けば、alternationsと似ています。トレーニングでは、1マイルのような長いインターバルに続いて、1/4マイルのような短いインターバルがあり、その後、長いインターバルに戻り、この順序を数回繰り返すのです。短い区間の前の休息時間も比較的短く、長い回復を経てサイクルが繰り返されるはずです。
blendsのメカニズムは若干異なりますが、速い区間が乳酸の産生を高め、長い区間がその乳酸に対処するという大前提は変わりません。レナート・カノーバによると、その主なメカニズムは、トレーニングによって「細胞膜の透過性が向上する」こと、つまり乳酸が筋肉から出たり入ったりしやすくなることだそうです。
以下は、5kmまでのblendsのしかたです。
5Kmのためのblends
5Kまでの10週間、この一連のトレーニングを行い、レースペースで乳酸を排出する能力を向上させます。RP = 1kmあたりの5K目標ペース。
10週間前:(2000m@RP (2’jog) 200m@RP-12″/k)×3、セット間4’jog
8週間前:(2000m@ RP-6″/k (2’jog) 300m@ RP-15″/k)×3、セット間4’jog
6週間前:(1600m@RP-6″/k (2’jog) 300m@RP-15″/k)×3、セット間4’jog
4週間前:(1200m@ RP-9″/k (2’jog) 400m@ RP-18″/k)×3、セット間は4’jog
2週間前:(800m @ RP-12″/k (2’jog) 400m@ RP-21″/k)×3、セット間は4分4’jog
新しい乳酸除去トレーニングの活用
重要なのは、トレーニングプログラムにおいて、それぞれをどのように使用するかを理解することです。
alternationsは、トレーニング期間中ずっと使用することができます。初期の段階では、低速区間がランの大部分を占める高度なLT走と考えるのがベストです。シーズン中にこれを行うには、alternationsの表で示したように、速い区間を長くして、少なくとも遅い区間と同じ長さにします。目標は、重要なレース前の最後の数週間で、速い区間が遅い区間と同じかそれ以上の長さになるようにすることです。
blendsは、主にトレーニング期間の中盤から後半にかけて、または従来のインターバルが使用される時間帯に使用されるべきです。最初のうちは、速いインターバルの長さを100mから300m程度にし、後半はスピードと長さを徐々に上げて、トレーニングの強度を高めていくようにします。
これらのトレーニングは、適応のための貴重な新しい刺激と、トレーニングのバラエティを増やすことの両方を可能にするはずです。従来のLT走やインターバルを捨ててしまうのではなく、隔週でこれらの新しいバリエーションをトレーニングプランに加えることで、トレーニング、ひいてはレースでのタイムに弾みをつけることができます。
参考サイト
筆者はSteve Magnessさんという、中長距離走のコーチです。運動科学の修士号を持っています。2019年世界陸上ドーハ大会の女子マラソン6位は、41歳のアメリカのフルタイム勤務の看護師でしたが、Steve Magnessさんが指導したそうです。
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