【中長距離走】駅伝日本一、世羅高校に学ぶ「脱管理」のチームづくり(岩本真弥、光文社新書)の感想:自主性と生活指導
『駅伝日本一、世羅高校に学ぶ「脱管理」のチームづくり』の著者
著者の岩本真弥さんは、1965年生まれ、広島県出身。福岡大学卒業。元広島県立世羅高校教諭。世羅高校を全国高校駅伝にて男子5回、女子1回合わせて計6回優勝に導きました。2015年は男女アベック優勝でした。2019年から、2023年現在は、実業団のダイソー女子駅伝部の監督を務めています。
また、岩本真弥さん自身が世羅高校OBで、青山学院大学長距離の原晋監督の1学年上です。
『駅伝日本一、世羅高校に学ぶ「脱管理」のチームづくり』の感想
女子は自主的に優勝を目指し始めた
先述のように、2015年、世羅高校は、全国高校駅伝で男女アベック優勝を達成しました。ただ、女子は、監督主導で優勝を目指したのではなく、女子選手のモチベーションは「男子だけ人気者になったらこっちも困るよね」とか「なんで男子ばっかり注目されるん?」という話が出て、みんながだんだん燃えてきて、チームがひとつにまとまったそうです(笑)。
筆者は、このような雰囲気になったのも、岩本真弥(元)先生の指導方針が大きかったのではないかと思いました。
岩本真弥(元)先生が怒るのは、学校の「世羅三訓」、挨拶励行、整理整頓、時間厳守についてだけだそうです。大会前も、ほとんど何も言わない。入学当初は技術的なことを言われたそうですが、練習のやり方なども、生徒に任せる、生徒を信用して自主性を認めてくれるのだそうです。
普段自主性を認めているからこそ、女子も自主的に、優勝を目指そうという雰囲気になったのだと思います。トップダウン型の強権的な指導者だったら、世羅高校女子の優勝は可能だったでしょうか?
指導の根本は日常生活
先述のように、世羅高校には「世羅三訓」があります。岩本真弥(元)先生は、「タイムさえ良ければそれでいいのではないか」というのは、プロスポーツの世界に限ってのことだとします。岩本真弥(元)先生は、陸上部監督である前に、学校の先生なので、日常生活の指導は大前提。それに加え、生活態度が悪い生徒は、長期的には、必ずどこかで崩れていくと思っているようです。さらに、取り組んでいるのは駅伝なので、集団のルールがおろそかになった状態で、チームとして機能するわけがない、と。
部活の指導については、普通の公立中学の陸上部で7年間に13回の日本一を達成された原田隆史先生は、「心・技・体・生活」とし、「心」と「生活」を大切にしていました。原田隆史先生は、現在はビジネスマンも指導しており、その時も、「心・技・体・生活」は変わりません。
また、プロスポーツに関しても、プロ野球の故野村克也監督は「人間的成長なくして、技術的進歩なし」と指導していました。現在、プロ野球界の指導者層には、野村監督の弟子がたくさんいます。
速さではなく強さ
岩本真弥(元)先生によると、「強さ」とは、「心の強さ」「メンタルの安定」であり、そのような選手が最終的には結果を残せると考えているようです。
「速いけど強さがない」選手は、自分の心をコントロールできず、素晴らしい能力を活かしきれないまま終わっていき、そのような選手を山のようにいる、そうです。
結局、強さを支えるのは人間性であり、人間性を磨くのは、普段の生活の中。そんな中で監督の役割は、生徒が自分で考えて自分で動く仕掛けを作ることだと考えているようです。
人間性という点では、上記の日常生活の野村監督の話で出てきました。自主性という点では、やはり、最初の女子が優勝をめざした経緯に出てきました。生徒を管理するのをやめようと。
岩本真弥監督と原晋監督の対談
『駅伝日本一、世羅高校に学ぶ「脱管理」のチームづくり』の巻末には、岩本真弥監督と原晋監督の世羅高校1学年違い対談が掲載されています。お2人の指導は、自主自律を求めるところ、生活習慣を重視する面で似ています。
そして、最後は「礼を尽くす」「義理人情」といったものが大切ではないか、ということでも、同意しています。
まとめ
『駅伝日本一、世羅高校に学ぶ「脱管理」のチームづくり』には、中長距離走の技術的な話は、ほとんど書かれていません。一方、世羅高校は実際に岩本真弥(元)先生の指導で強くなったのだから、『駅伝日本一、世羅高校に学ぶ「脱管理」のチームづくり』の読者層であろう、成人市民ランナーも、速くなれるかもしれません。
しかし、それ以上に、本書は、中長距離走ではなく、企業など、組織で管理職の立場にある人が、「管理職」という名に反して「脱管理」を果たし、強い集団を作るために、読んで学ぶべき本なのだと思いました。陸上競技を全く知らない人でも、読んで意味がわかるでしょうし、陸上競技をよく知る人なら、なおさら、腑に落ちることが多いでしょう。
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